キャラメルボックス2014サマーツアー・プレミアム「涙を数える」感想レポ(2)

先日、7/30〜7/31公演分の感想を書きましたが、追加で2公演見たので追記です。

  • 観覧した公演

 8月9日 18:00〜
 8月10日 13:00〜

  • 感想

ストーリーについては前述のとおりなので、今回は主人公・長谷川鏡吾と、親友・舟橋明一郎について思ったことをだらだら書きます。

鏡吾と明一郎は、幼い頃からきょうだいのように育った親友同士。
しかし鏡吾の父が汚名を着せられ死罪となってからは、2人の友情に影が落ちます。
父の死に直面して大人になるほかなかった鏡吾と、変わらぬ友情を素直に信じていた明一郎。
それが鏡吾にとっては疎ましくもあり、嬉しくもあったのだと思います。
しかし、とある事実を知って立場が逆転。罪悪感に打たれた明一郎は転がり落ちるように絶望の淵に落ちていきます。
そして鏡吾は、「明一郎を斬る」という使命を帯びて江戸へ向かいます。

鏡吾が、母に向かって明一郎と父への思いを語るシーンには圧倒されました。
鏡吾「俺は13年前、全てを失いました。藩校も…道場も…友人たちもみんな去っていきました。でも、明一郎だけは傍にいてくれた。俺を気遣い、鏡吾、鏡吾と声をかけてくれた!それがどんなに嬉しかったか!」
ここでまず第一の泣き所。一時は「一生許さない」とまで吐き捨てた友人のことをここまで慕っていたなんて、と。
鏡吾「ですが、私には友よりも大事なものがある…父上です。父上の汚名を雪ぎ、潔白を証明したい!それに私は、もっと人並みの生活がしたい…父上が生きていたときのような暮らしを!母上もそうではないのですか!」
母「戻りたいに決まっています…!ですが、それが明一郎殿の命と引き換えというなら、私は遠慮します。そんなことをして、お父上が喜ぶと思っているのですか?」
鏡吾「わかりません、ですがただ一言、『鏡吾よくやった』と褒めてほしいと思います。」
泣かせどころがガツンガツンと来ます。鏡吾の行動原理はあまりにもシンプルで、でも決して叶わないもの。
あまりにも早く大人にならざるを得なかった鏡吾が「親に褒めてほしい」という原初的欲求を持っていることに切なくなります。

ここからの展開はもう畳み掛けるようです。

共に逃げようと決めた鏡吾と明一郎が、南条に見つかり、月明りの下で斬り合いをするシーンの美しさ。
覚悟を決めて明一郎を斬りにかかるものの、結局「私にはできません。」と慟哭するシーンもよかったです。
そして、南条を討ち、息も絶え絶えな明一郎を鏡吾が抱え起こして末期の会話。
生死を賭けた悲壮な局面であったはずなのに、本気で勝負できたことが「楽しかった」「ああ、俺も楽しかった!」と讃え合う。
今わの際に「前へ進め、鏡…」と語りかける明一郎の口調は力強く優しいです。

その後、明一郎を討ち取った(ことになっている)手柄により城に出仕が決まった鏡吾が、母と喜びを分かち合う場面。
「誰か友だちに知らせないと」と急く母に、鏡吾は「私には友はおりません」と答えます。
「城に出仕すれば、すぐ気の合う人ができる」と言われても「私に友は要りません。明一郎がいれば、それでよいのです」と笑顔で告げるのです。

ラストシーン、ヒーリング系の素敵な洋楽が流れる中で、「見ていてくれ、明一郎」と決意も新たに剣を振る鏡吾と、それを後ろからニコニコと見守り「きょーーーごーーーー!」と大声で叫ぶ明一郎のショットで舞台は幕を閉じるわけです。
本当に、光が差し込むような、希望を感じさせるエンディング。
なのに、この後の鏡吾を待っているのは「TRUTH」のさらなる悲劇と、そこに至るまでに彼を歪ませたいくつもの理不尽であったわけです。
「前へ進め」と明一郎が背中を押した先にあったものって、何だったんだろう。
そんなわけで、ラストシーンでは、心は感動しているのに頭はモヤモヤするという現象がおきます。
鏡吾はいつか解放されるのかな。
重苦しい余韻が後を引きました。

大佛聞多が「あなた『だから』、力を貸す気になったんです」と評価した、「涙を数える」の鏡吾。
身分ではなく人間性を評価してくれた大佛を、けれど鏡吾は「友」とはしないんですよね。
大佛の「マイフレンド」の呼びかけも、聞こえなかったのか、聞き流したのか。
友となりうる人間を「明一郎以外はいらない」と排除したこと、それが鏡吾の今後の人生を決定づけてしまったのかもしれないです。
「TRUTH」の源之助が最終的に英之介により救済されたのとは対照的ですね。

  • あとは個別のキャストさんについてあれこれ。

坂口理恵さんについて

泣かせどころは大体、坂口理恵さん演じる鏡吾の母・淑江さんが作っていたように思います。先述のシーンはその最たる物かも。
本筋に直接関わらないように見える、鏡吾・淑江の母子のシーンに切なさが詰まっています。
それは坂口さんが作る空気感の賜物でもあるでしょうし、「母なるものへの思慕」みたいものがそうさせるのかもしれません。

○西川浩幸さんについて

舟橋貞蔵役の西川浩幸さん、ところどころ滑舌に「あれっ?」と思うことがあったんだけど、調べてみたら演出家さんのブログで、過去の病気の後遺症をお持ちということがわかりました。
貞蔵は基本的には鷹揚な好々爺だったことを思い出し、役者さんの前向きな姿勢に敬意を感じました。
ブログで取り上げられてる書籍がおれやなぎ(D-BOYS柳浩太郎)の本というのも不思議な符合ですね。

○岡田達也さんについて

私、この人のファンになりました(笑)
出てくるシーン全てに緊張感がすさまじいです。特に、明一郎が父を惨殺した夜、初めて鏡吾の前に姿を現し「目付役の南条朔之介だ。」と名乗るシーンの恐ろしさったらないです。ラスボス感たっぷり。実際ラスボスなんですけど。
クセのある殺陣も目が離せませんでした。「叩っ斬る」ってきっとあんな感じ。
さらにさらに、カーテンコールでの物腰の柔らかさ、笑顔の爽やかさ、キレキレな突っ込みが役とは全然違っていてびっくりしました。俳優さんてSUGEEEEEEEE。

○原田樹里さんについて

舟橋樹雨役の原田さん、溌剌として、良い意味で幼くてフレッシュでした。
樹雨は結局、鏡吾のことを誤解したまま、違う人のもとに嫁いでいくわけですが、それは鏡吾の優しさなんですよね。うーん切ない。

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