Shared TRUMPシリーズ 音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』感想レポ(雨下の章)

こんにちはこんばんは、こんばんはこんにちは。

黑世界ですよ、黑世界。
あの「TRUMP」シリーズの最新作に、8年の時を経て池岡さんが再出演しましたよ。
ご出演が発表されたときは快哉を叫びました。残業中に。
憎きあのウイルスのせいで現地には行けなかったものの、質の良い配信をしてくれたおかげで黒き世界を堪能することができました。


※ATTENTION※
書いた人は「TRUMP」シリーズ初心者です。
これまでは池岡さんご出演の「DステTRUMP」しか観たことがなく、黑世界観劇のために慌てて「LILIUM」「SPECTER」「MARIGOLD」のDVDを購入、何年も遅れて打ちのめされたクチです。

その深淵な世界観や複雑な伏線設定、「純度の高い地獄」とでもいうべき衝撃的な展開で名高いシリーズであることは十分承知していますが、理解は非常に浅いです。
(「我は守護者なり」と「君は僕で僕は君だ」と「ライネス」がアカンことは覚えた)
したがって、今回はほぼ黑世界単独の作品として見ていますのでご承知おきください。
シリーズファンなら膝を打つ演出とかセリフとかたくさんありそうだけど、あまり読み解けてない。

シリーズ全体の素晴らしい考察ブログはすでにネットの海に数多くありますので、私はいつもどおり池岡さん可愛いだけの感想をつづりますかね。
なおネタバレはガッツリしてますのでお気を付けください。

<視聴公演>
ライブ配信のみ
9月22日(雨下・日和)、27日(雨下)、10月3日(雨下・日和)、4日(雨下)

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▼公演概要
●日程・会場
2020年9月20日(日)~10月4日(日)サンシャイン劇場
2020年10月14日(水)~10月20日(火)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
ライブ配信:9月22日(火祝)、26日(土)、27日(日)、10月3日(土)、4日(日)

●演出・監修:末満健一
●音楽:和田俊輔
●脚本・キャスト
<雨下の章>
脚本:中屋敷法仁、降田天、宮沢龍生/末満健一
出演:鞘師里保 樹里咲穂 池岡亮介 大久保祥太郎 新良エツ子 宮川浩 中尾ミエ 松岡充
<日和の章>
脚本:岩井勇気、葛木英、来楽零/末満健一
出演:鞘師里保 上原理生 MIO YAE 三好大貴 中山義紘 新良エツ子 朴?美

▼公式サイト
https://trump2020.westage.jp/


▼作品概要(公式HPより引用)
音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』上演決定!
<shared TRUMPシリーズ>とは、一つの世界観を複数の作家が共有して創作する“シェアードワールド”の手法を用いたTRUMPシリーズの新たな試みで、末満健一自らが「この方に」と執筆を熱望した方々の参加が実現。
様々なジャンルから集結した豪華作家陣と末満健一による短編アンソロジーの形式で、これまで語られることのなかったTRUMPシリーズ2作目『LILIUM』の主人公・リリーが、不老不死のあてなき旅の中で出会う、「雨下の章」と「日和の章」の二つの物語を同時上演いたします。
さらに、配信ならではの演出も加わった全10回のライブ配信の実施も決定。
TRUMPシリーズの新たな瞬間を、是非ともにお楽しみください!

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▼各話タイトル
イデアの闖入者[作・末満健一]
②ついでいくもの、こえていくこと[作・宮沢龍生]
③求めろ捧げろ待っていろ[作・中屋敷法仁]
④少女を映す鏡[作・末満健一]
⑤馬車の日[作・降田天]
⑥枯れゆくウル[作・末満健一]


▼作品全体の感想
「TRUMP」シリーズ中「LILIUM」の主人公である「リリー」を中心に紡がれる12の物語。

「音楽朗読劇」ってどんな感じかな?と思いつつ、朗読劇っていったらふつう座って台本を持ちながら読み上げるおとなしい形式じゃないですか…。
だから、TRUMPシリーズの美しい音楽をバックに、静かに登場人物の内面などが語られる舞台なんだろうと漠然とイメージしていました。


全然違う。


全然違う。


ほんとに全然違う。


確かに台本は持ってる。
確かに美しい音楽は流れてる。

ただし全然静かにしていない!
歌う!踊る!走る!跳ぶ!はねる!
しかしながら完璧なソーシャルディスタンス!

当初上演予定だったTRUMPシリーズ最新作が、コロナの間は上演が難しいため、急遽立ち上がったプロジェクトがこの「黑世界」だそうですが…。

「やむを得ず」方針転換した舞台がこれ?
ずっと前から構想されていた作品なんじゃないの?
(「黑世界」初演は9月。つまりコロナ拡大開始からものの半年)
コロナ対策をしながらできる演劇表現を、芸術性を損なわず、むしろ発展的に、必然だったかのように昇華してしまうなんて。
クリエイターの想像力って本当にタフで、勇気づけられる。
コロナ絶対許すまじ必ず滅すマンだけど、コロナがなかったら黑世界もなかったと思うと……………いやコロナ絶対許すまじ必ず滅すですけど。

「雨下の章」「日和の章」に分かれて綴られる12編の物語は、永遠の命を与えられてしまった「リリー」が、死を求めて旅を続ける中で出会った人々の、時に温かく、時に愚かで、とても美しい人間の営み。

今回の新しい試みは他にもあって、シリーズライターの末満さんのほか、末満さんがオファーした数名のライターがそれぞれ脚本を担当していること。
短編集ならではの挑戦だし、これがまたいい味を出していて、ある意味で(いい意味で)末満さんには絶対に書けないだろうな、という脚本を、それでもTRUMPの世界の1ピースとして不思議にはまる物語を紡いでいました。
それぞれのお話は単品で見ても成立するし、「本当にこれTRUMPシリーズなのかな?」と思うような明るいお話(え)もあったりするんだけど、12編通してみた時に間違いなく「TRUMP」の色に、音になる。
それだけシリーズの力が強いということと、各脚本の魅力、そしてそれをまとめあげる末満さんの力量に改めて敬服する。
短編集でありながら、リリーの苦悩もきちんと描いて、リリーのこれからを暗示する、そしてシリーズそのものも一つの結末に向けて一歩足を進めていくような、シリーズにとってなくてはならないピースになったのでは。

そしてとにかく主演の鞘師里保さんが素晴らしすぎた。
錚々たる歌ウマメンバーに囲まれても遜色ない歌声や、キレのあるダンスが素晴らしいのはもちろん、美しくも寂しげな、儚いけど凛とした佇まいがもう満点。
「LILIUM」から6年という現実の時間経過を感じさせない、不老不死の少女を貫くビジュアルの維持も素晴らしい。
「リリー」という虚構の存在が、今でもこの世界のどこかでひっそりと生きているのではないか。
そんな風に余韻を感じさせる素晴らしいお芝居でした。

 

▼各話感想


イデアの闖入者[作・末満健一]

12編のオムニバスを通して、主人公は「LILIUM」で不死者になった吸血種の少女・リリー。
演じる鞘師さんはしばらく海外留学されていて、日本での芸能活動を休止していたそうなのだけど、「LILIUM」から現実世界では6年経っているというのに、容姿も雰囲気もあの時のリリーそのままで、「純潔の少女のまま永遠を生きる」リリーが本当にそこに立っているかのようです。このことにまず度肝を抜かれる。

静かに物語が始まるのだけど、弦楽器が生演奏なのにさらに驚く。クールすぎるし、弦のチューニングから入るのがとてもオシャレ。

冒頭、リリーは里帰りして両親に会う夢を見ます。
(本当の両親は何百年も前に死んでいるはずなので当然、繭期が見せる妄想。)
あの不思議なサナトリウム・クランでの楽しかった生活を両親に歌って聞かせるシーン。一緒に過ごした仲間について、全員の名前とエピソードをニコニコしながら語るリリー。
鞘師ちゃんの歌声が純粋な少女そのもので愛らしくてずっと見ていられるんだけど、その子たち全員、その………つまり……リリーが殺してしまったわけなので………。
つ、つら……と思うのもつかの間、悲劇のシーンの再現がやってくる。
「LILIUM」クライマックスの虐殺シーンと、リリーのあのすさまじい咆哮が見事に再現されます。「LILIUM」ファン、開幕から死屍累々やろこんなん。

その悪夢から助けてくれたのは、この「雨下の章」のキーパーソンにして傍観者、シュカ(演:松岡充)。
初登場時は「全く面倒な女だな」ってヤレヤレ感出しながら助けてくるのに、最後まで見るとリリーへの憧憬と執着が濃すぎるリリー強火担だとわかる。恋とも愛とも違う、純度の高い感情をリリーに抱き、リリーを理解すること、見守ること、そして見届けることを生きる意味にしている。

ある程度TRUMPシリーズに親しんでいると、「我は守護者なり」と聞こえただけで「やめろーーーー!!それ以上言うなーーーー!!!!」となってしまうんだけど、「…と言いたいところだがそんな大層なものではない。ただの傍観者さ」と続くため生存フラグだと認識してしまう(そして見事にへし折られる)。
演じているのがSOPHIA松岡充さんだけあって、シュカ様(圧倒的に様)が歌いはじめるとたちどころにコンサート会場になってしまう。圧倒的ビジュアル系ヴォイスにひれ伏してしまう。天井から降り注ぐ羽根と薔薇の演出が見える(幻視)。

バッドトリップの夢の中、リリーが出会ったのは黒ずくめの不思議な女性(演:新良エツ子)。
TRUMPシリーズの透き通るようなテーマソングを歌っていらっしゃるあのエッちゃんですね。意外にも役として出演するのは初だとか。透け感のある衣装デザインめっちゃ素敵。
リリーの別人格?イマジナリーフレンド?のようなその存在に、リリーはかつての友人「チェリー」の名前をつける。気が強いけど面倒見のいいその女性は確かに「チェリー」に重なる面もあって。
どこまで行っても開けることのない夜のような「黑世界」を、両の手が死に届くまで旅をするリリー。
永遠の命を終わらせる方法を探しに、リリーとチェリーの2人旅が始まる。


●オープニングテーマ
ここで登場人物が全員登場して主題歌を歌唱。
このへんでやっと「あっ……音楽朗読劇って、音楽流しながら朗読する感じじゃないんですね?今から始まるの、ミュージカルなんですね???」ってことに気が付く(遅い)

照明が本当にきれいで、一気にTRUMPの、黑世界の空間に引き込まれる。
重厚で荘厳で敬虔さも感じるオープニング。
鞘師さんの透明感が果てしない。
新良さんの歌声の神聖さがすごい。
感染対策のために稽古はほとんどオンラインで、立ち稽古はたった3回って聞いたけれどにわかには信じられないです。

 

②ついでいくもの、こえていくこと[作・宮沢龍生]

<あらすじ>
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石造り職人の親方(演:宮川浩)とその弟子シーメン(演:大久保祥太郎)に出会ったリリー。
職人たちは歴史的な橋の建設に取り組んでいたが、ある日の大雨で橋は流され、親方は命を落としてしまう。
未熟で叱られてばかりいたシーメンは、親方が残した愛ある激励の手紙と技術書を基に、遺志をついでとうとう橋を完成させるのだった。
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旅の途中で大雨に降られたリリーとチェリーは、宿を探してさ迷い歩く。
2人のデュエットいいなあ。新良さんの声と鞘師さんの声、地声は全然違うはずなのに歌声になると区別がつかないくらい親和性があって心地よい。
この時の軽やかな歌に登場するのが、ハイ!そうです。我らが池岡さんと大久保祥太郎。このD2コンビが画面に出てくるだけで尊い
何役で出てきたかって?

太った蜘蛛役です!!

「太った蜘蛛がダンスをしてる~♪」の歌詞に合わせて、蜘蛛のかぶりものをかぶってステップを踏む池岡さんと大久保祥太郎。かわいすぎか。

そうこうしているうちに出会ったのは石造り職人の親方・鬼灯と、その弟子のシーメン。実は元ヴァンパイアハンターだった親方はリリーの正体にすぐに気が付くけれど、これまであまりにも多くの吸血種の命を奪ってきた罪の意識もあり、優しい態度で接してくれる。

親方と橋職人たちの仕事のシーンの曲、楽しくて明るくて大好きです。
「いいか、よく聞け野郎ども!」という親方の指示のもと、「合点でさ親方!」と、スコップやツルハシを持った職人たちが軽やかに踊る。
この職人の中に池岡さんがいるのですよ!
襟元がはだけたラフな格好にニッコニコな笑顔でステップを踏む池岡亮介、そうだ私はこういう池岡亮介が観たかった!!!池岡さんの笑顔プライスレス!!!
と明るいシーンなのに涙ぐむ。だって舞台で演じている彼を見るのは8か月ぶり。そりゃ泣きますって。
スコップを振る動作が360度どっからどうみても池岡亮介。はけるときに大久保祥太郎と顔見合わせるとこもまた可愛い。
そして「わからないことは何もかも俺に聞け!」って言ってくれる親方が頼もしすぎる。そんな上司欲しかったよね!!!

鬼灯親方は不慮の事故がもとで命を落とすんだけど、哀しみにくれる弟子のシーメンには、親方の手紙と技術書が残されいた。
「頼んだぜ、俺の一番弟子」と結ばれた手紙でシーメンは発奮。5年かけて橋を完成させ、ずっと見守っていたリリーはその橋を渡って旅を再開する。

このときのシーメン・祥太郎の歌がすさまじく良い。
祥太郎君はD-BOYSの中でも芸達者で何でもこなすから、歌のうまさは想定内なんだけど、視線の上げ方、曇りなきまなこ、高らかな歌い上げ方など見入られてしまいました。
8年前のDステ版TRUMPではで唯一のトリプルキャスト、「悔しい」と絞り出していた姿を知っているから、いつの間にか「TRUMP」シリーズ最多出演記録を打ち立て、初めてのソロ曲でまっすぐ歌い上げる姿に感情を揺さぶられないはずもなく。

1人1人の人間の命は不死者のリリーからしたら一瞬で過ぎていくもの、だけれども営みや思いは受け継がれていくのだという、人間世界側の美しさを描いた爽やかなお話でした。
人の思いこそが永遠であり不滅なんだよって産屋敷輝哉さんも言っていたし。
(関係ないけど鬼舞辻無惨様ってほとんどTrueOfVampだよね)

 

③求めろ捧げろ待っていろ[作・中屋敷法仁]

<あらすじ>
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リリーとチェリーが出会った情熱的な老未亡人、マルグリット(演:中尾ミエ)。
彼女は過去、吸血種に襲われたところを麗しきヴァンパイアハンター・雷山(演:池岡亮介)に助けられたことを唯一無二の思い出としている。
彼に再会するため、その状況を再現すべく、自らの体を切り刻んで生き血の匂いを振りまき、恍惚と悶えるのだった………。
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問題作「求捧待」。
池岡さん大暴れ。
人間繭期ラプソディ。
黑世界の最大瞬間風速。
誰が呼んだかライネスキャンセラー。
雷山・ジ・エ――――クセレ――――ント!!!!

なんでこれTRUMPシリーズでやろうと思ったの中屋敷さん????
いや貴方様には絶対の信頼を置いてますけども。池岡さんのことを大好きで夢見すぎなところも含めて本当によかったなと思ってますけども。
なんでこれTRUMPシリーズでやろうと思った???????(2回目)
ありがとうございます本当にありがとうございます。
中屋敷さんのTwitterいわく「池岡亮介への願望と妄想をバキバキに詰め込んでしまった」を見た瞬間五体投地しました。本当に……ありがとう………(100万回のありがとう)

美しきヴァンパイアハンター・雷山を演じるのは我らが池岡亮介
痩躯を麗しい漆黒の装いに包んだ伊達男。喉仏と鎖骨からほとばしる色気がすごい。胸元のはだけ具合がプロの犯行。形の整ったマットな唇とナルシシズム全開な流し目が全くもって似合っている。1970年代の沢田研二みたい(果たして伝わるのかそれは)。
これまでシリーズに登場したヴァンパイアハンターたちが割と硬派な人ばかりだったので度肝を抜かれたというか、彼らから初対面でグーで行かれそうだなっていうのが第一印象です。
(いや宿舎に女を待たせていた奴が1人いたな?演:池岡亮介ですけれども)

まず幕開けからしておかしい。
繭期の具合がよろしくないリリー、七五調の都々逸で見栄を切りながら登場。
そこに「お嬢さん、この道は引き返した方が身のためだ(ヴァンプが出るから)」と告げに現れる美青年・雷山。
完全に池岡さんのアドリブなんだと思うけど、雷山、現れた時から様子がおかしい。さらに公演を重ねるごとに様子のおかしさが加速する。推し、遊びまくってる。異様に振動してみたり。乳首出してみたり。投げキッスしてみたり。
リリー視点で見たら一歩間違えれば、否、完全に不審者。

そして一行は一人の身なりの良い老未亡人・マルグリット(演:中尾ミエ)に出会う。
このマルグリット、一言でいうと「ただの私たち」もとい「雷山強火担」。

雷山に助けられた甘美な思い出を胸に、再会を夢見るあまりに自らを危険にさらして彼を探し歩く。
ヴァンプあるところにヴァンパイアハンターが現れると考えたマルグリットは、自らの体を剣で切り刻み、生き血の匂いでヴァンプたちをおびき寄せる。
見事、雷山と再会を果たしたマルグリットはその悦びに嬌声を上げ、生き血を流しながら悶え、雷山の美しさを讃えながら、恍惚の中に息絶えるのだった…

うん、どう見てもただの私たち。
いや私たちは命を大事にしますけども。
どっちかっていると切っているのはカードで(やめなさい)

自らの体を傷つけながら「いいわ雷山!素敵よ雷山!」「エクスタシィイイイイ!」とうっとり叫ぶ強火担・マルグリットに、「ヴァンプめ!俺のマルグリットから離れろー!」とかやっちゃうガチ恋製造機・雷山。
出会ってはいけない二人だったよねたぶん。

真面目に言うと中尾ミエさんが素敵すぎます。
雷山と再会してからのデュエット、カルメンみたいな情熱的な慕情を、バラのような赤い照明を浴びながら、スカートをひらひら靡かせて踊る往年の大スタア。スパニッシュカスタネットの軽やかな音が似合いすぎる。
伸びやかな太い声で歌い上げるミエさんの、その相手役が我らが池岡亮介という事実が本当に誇らしくて。
だってあの「可愛いベイビー」の人ですよ。音楽史に輝くような曲を生み出した、60年のキャリアのある女優さんの相手役がわが推し。
嬉しくて泣くかと思いました(…と、思ったのは落ち着いてからで、初見はポカンと見てましたが)

「ライザン・ジ・エ―クセレーント」とバックコーラスするリリーとチェリー。
「もっと殺してヴァンプ!もっと守って私たち!」と良い声で歌うマルグリット。
「俺の名前はライザー――ン」と自己陶酔全開で踊り歌う雷山。
マルグリットパートでも「アォ!」「フッ!」「カモォン…」とか合いの手入れてる雷山。(カモォンって何…?)

リリーとチェリーが「我々は一体、何を見せられているのかァ!」って言ってたけどそれ本当に思う。私たちも思う。何見せられてんのこれ。最高か。

騎士道精神(なのか?)にあふれた雷山は「もう剣を捨てたい、引退したい!」と言いながら、「マルグリット、俺は君が求めさえすれば、君だけのヴァンパイアハンター!」と切なげに呼びかける。
マルグリットの強すぎる妄執を持て余していたかのような雷山、彼女が息絶え解放されたはずなのに、「まだ終わっていない」とつぶやく。
「一体何が」と戸惑うリリーの耳に届くは、遠くから聞こえる女たちの黄色い悲鳴。

そう、マルグリットだけではなかったのだ。
雷山との甘美な時間のために彼を追い続ける、第二、第三のマルグリットが、あそこにも、あそこにも、あそこにも!!
「もっと殺して吸血種!もっと守って私たち!!」とせがむ女たちがいっぱい!!
なんて罪な男なんだ、雷山!!!

「いいさ!お前たちがそれを望むなら!さあ来い!来い!ここに来ーーーい!!」

ハイここ!!!!
ギュイイイイイインとかき鳴らされるエレキギター!!!
響き渡るブラスセクション!!!!
えっちょっと待ってTRUMPシリーズでそんな音鳴りますっけ!?

突如始まったアップテンポでダンサブルなイントロに合わせて、うぉい!うぉい!と客席に向かって拳を突き上げ始める雷山!
カモン拍手!とばかりに頭上でクラップハンズする雷山!
「drrrrrrrrrrrrr」と巻き舌で煽る雷山!
拳を挙げろ!タオルを振れ!サイリウムをぶん回せ!!!


えええええええええええええええ(困惑)

 

*****歌詞耳コピ(全部はNGと思うので一部)*****

「街中の国中の世界中の女 女 女たちが
 心から 俺を求めている
 雷山が見たい 雷山に会いたい
 雷山をもっともっともっと感じたい

 俺に守ってほしいから
 吸血種に襲ってほしいから
 女たちは悦んで柔き素肌に傷を刻む
 溢れる真っ紅な血しぶきは この俺への捧げもの

 待っていろ見せてやる 待っていろ
 雷山を見せてやる 雷山に会わせてやる
 この俺を感じるがいいさ Ah Ahhhhhhh!!!!!」

*****歌詞終わり*****


ねえなにこれ。

初見でポカ――――ンとして、最後まで割とポカ――――ンとしていました。
昔のニコニコ動画なら「※ご覧の舞台は『黑世界』です」って字幕ついてた。
黒執事でP4がアイドルやり始めた時を超す衝撃(伝わらんて)。
手塚国光がテニスで恐竜を滅ぼした時以来の驚愕(伝わらんて)。
ビッグマシンに海東大樹が乗込んだ時に似た困惑(伝わらんて)。

観客を煽りながら縦横無尽にステージを駆け回る雷山。
バックダンサーとしてキレッキレのダンスを踊るリリーとチェリー。
えっちょ全部見たいんですけど!!1カメ2カメ3カメ全部映してください!!!!ワイプで抜いてください!!!

「これぞまさしくエクスタシィイイイイ!!」リリーが叫ぶ通り。
「全身血だらけ濡れ鼠、それでも彼は美しかった!」チェリーが評する通り。
女たちの命を吸うほどに目映く美しく輝く雷山。
狂気と正気が交錯して生まれる影の深さが、一層彼を蠱惑的に笑わせる。
その笑顔が自分に向けられるならば死んでもいいわと女たちに思わせるほどの。

「もっと殺して吸血種!もっと守って私たち!!」と叫びながら雷山に群がる女たち。絶対、サイリウムと蛍光色の文字書かれたウチワ持ってる。
「このヴァンパイアハンター雷山に、お前たちの血を捧げよ!!」と遠吠えしながら去っていく雷山。

そんな彼を見送って背を向ける、リリーとチェリー。

「その美貌と才能であまたの女を虜にし、生き血を流させる。それは彼女たちにとっては、救いなのよ!」
「あんたも彼に救ってもらう?」
「残念だけど、誰にもあたしは救えないわ」
「死だけがあんたの救いだものねえ」

などと、唐突に本筋のヤツぶっこんで来たりする。

「ここであったこと全部、繭期の幻だと、いいんだけど。」

そんなリリーの呟きとともに、突如暗転。
さっきまでの狂騒などなかったかのように、世界は再び黒く染まる。


………

……いやー、文字起こししても意味わかりませんね(褒めてる)


振り切れたギャグ回ともとれる今作だけど、ちょっと真面目に怖いのはこれ、「(TRUMPシリーズ名物の)繭期のヴァンプが引き起こした悲劇」ではないことなんですよね。
雷山は人間。マルグリットも人間。生き血を流して狂喜乱舞するあまたの女たちも人間。
繭期のヴァンプは確かに襲い掛かってくるけど、それもマルグリットが金で籠絡した人間の仕業であり、つまりこの夜の狂乱はすべて人間が引き起こしたこと。かなりギルティ。TRUMP世界が歪んでいるのはヴァンプの、TRUMPのせいだけではない。もしかしたら黑世界オムニバスの中で一番えぐい話かも。

だって、あまりにも命が軽くないか?人間もヴァンプも。
「もっと殺して吸血種!」って言葉に、マルグリットも女たちも躊躇がないし。
「吸血種なんか殺したくはない!」とか言いつつ、雷山全然ノリノリで殺すし。
シリーズ他作品でよく見る「ヴァンプ狩りだぁああ!」って息巻く人間たちももう少しヴァンプの基本的人権(人権?)に関して想いを馳せることができるんでないの。
一見普通の人間からもたらされる歪な狂気は、時に物理的な恐怖も凌ぐ。
そりゃあリリーもちょっと引き気味に距離取りたくなりますわ…。
しかも雨下・日和通して、関わった人間とはそれなりに年単位で付き合う(場合によっては寿命まで一緒にいる)話が多いのに、たった一夜の出来事っていうところも異色感があっていい。最大瞬間風速が強すぎる。

あと、第3話と言えばアドリブ(日替わりネタ含む)。

前述のとおり池岡さんの遊びはとどまるところを知らず、tkb出してみたり、出さなかったり、両tkb出してみたり(文字にすると酷い)するわけですけど、このほかにもいろいろ。

日替わりネタとして、マルグリットが息絶えた後の「いや。まだなんだ」というセリフを色んなパターンで言って、それを鞘師リリーに復唱させる、というのがありまして。
鞘師ちゃんとは事前打ち合わせをしてない(たぶん)中、回を重ねるごとにムチャぶりになっていく。

・9月22日公演「まんだ…まんだ…まんだなんだ………(何の訛り)」
・10月3日公演「え~~、まだなんです~~、…雷山でした~~(古畑)」
・10月4日公演「まだ…まだでェす!ハハッ!ジャパァン!雷山でェす!!(ひろみGO)」

いや元モー娘。に何やらしてんねん。
鞘師ちゃんよく食らいついた!えらい!うちの推しがすみません!!
下手したら元ネタ知らないのもあっただろうに、恥ずかしそうに復唱する鞘師ちゃんホント推せる。かわいい。

もう一つ、中尾さんが勢いあまって暗い中に台本を落とし、「今、何ページ!?」と問い、雷山が「え、えぇっ!?…な、77ページだマルグリットぉおお!!」って叫ぶシーンが最高に良かったです。仕込みだったらしいけど。
あまりに自然な発声だったので最初仕込みだとわからなくて、「ピンチ切り抜けすぎwww」と抱腹絶倒だったのですが、のちに、稽古場から行われていた中尾さん発のアドリブだと知る。初回は池岡さんに予告もなかったらしい。
中尾さんの遊び心、池岡さんすら軽々超えててめちゃくちゃかっこいいな??さすがは大女優。もっと翻弄されたいです。

ちなみにリアルタイム視聴のときは付属のチャット機能で実況を見ながらだったんだけど、他の話では真面目な考察や鞘師ちゃんを称える声、展開のしんどさエモさに言及しているコメントが多い中、この第3話だけは
「3話来るぞ……」「カオスwwwwwwwww」「わけわからんwwwwwwwww」「昨日より格段にひどいwwww」「ペンラ振りたいwwww」
というコメントが殺到し、驚きの速さで実況欄を駆け抜けていたことは記録しておきたい。
実況コメント、ずっと治安が良くてとても楽しかった。

そろそろまとめよう。

求めろ・捧げろ・待っていろ。
とにかく回を重ねるごとに池岡さんが美しくそして様子がおかしくなっていくので、一瞬たりとも目が離せませんでした。ある意味この人が一番繭期。
完全に異常な人なのに圧倒的な美でぶん殴って黙らせてくるところもよかった。
推しが美しいのは昔から当然ですが、ここまで「美しさ!!!!!」を前面に押し出してきた役は今までなかったかも。(雷蔵ちゃんはカワイイ枠なのでちょっと別)

中屋敷さんありがとう。池岡亮介に夢を見てくれて本当にありがとう。
雷山ソロライブツアー開催待ってます。

 

④少女を映す鏡[作・末満健一]

<あらすじ>
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人の5倍の速度で年を取る吸血種の「少女」アイダ。
老女の姿となり余命いくばくもないアイダはリリーを鏡の中に閉じ込め、「本当のあたし」として話し相手にする。
やがてアイダの内面に恋をした少年の吸血種が現れるが、アイダはその想いに応えることなく寿命を迎える。
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また一編の詩のような美しい物語が来ましたよ…。
第3話から中尾ミエさんが続投し、見た目は老女、中身は少女の「アイダ」を演じるんだけど、第3話との温度差すごすぎて死ぬ。グッピーが死ぬ。

アイダは、不死のリリーとは真逆の存在。1年で5歳分年を取ってしまう。
今の年齢は15歳の繭期なのだけれど、見た目は75歳の老女なので、クランには行かず家に閉じこもっている。
本当ならリリーのような愛らしい容姿で恋をしていたかも、という願望が高じてリリーを鏡に幽閉し(サラッと閉じ込めてたけどどんな能力なんだ…)3年の間、「ねえ、あたし」と話し相手にする。

そんなアイダに「僕、君のことが好きなんだ…街で見かけた時から」という少年(演:大久保祥太郎)が現れる。少年は繭期の症状?で人の内面が見えるということなのかな。
少年は天真爛漫な好意を表しながらアイダのもとに通い詰めるが、恋を知りたかったはずのアイダは少年を拒み続ける。アイダは18歳(外見は90歳)になっていた。
ついさっきまで妖艶かつ狂気の老婦人を演じていた中尾ミエさんが、今作では本当に恋に怯える18歳の無垢な少女に見えてくるから不思議。
恋を恐れ、傷つくことを恐れたアイダは、とうとう少年の気持ちを受け入れることなく、眠るように寿命を迎える。

アイダの死の直前に鏡から解放されたリリーは「これが本当のアイダよ」と、少年にアイダの亡骸を引き合わせる。
少年はアイダの真の外見を見てもなお「やっぱり綺麗な人だったんだね。ボクは君のことが、好きだったんだ…」と嘆きにくれる。

静謐な雰囲気の中でアイダを悼むリリーの歌声が、本当に優しくて透明で哀しくて。

「恋を知りたいと願いながら恋を知らないまま
 恋を知りたいと願いながら恋を恐れたまま
 鏡はすべてを見ていた 少女の孤独を」

そしてナズェミテルンデス的に現れるシュカ様が言う。「狂ってしまえば楽だろうに!」
リリーは答える。「この胸の奥にあるのが悲しいという感情なら、わたしはそれを捨てたりはしないわ」

そう、リリーは悠久の孤独の中で、狂気に身を落としていなかった。
愛を、喜びを、悲しみを、忘れてはいなかった。

ここが切ないところなんですよね……クラウスの被害者的立場だった聡明なソフィが、長すぎる時を経てクラウスと同様の悲劇を再生産していることを考えると、リリーの在り方は気高くも感じるし、とはいえリリーの孤独は始まったばかり。単純にソフィと比べることはできないし、ソフィだって気高い生き方を選びたかったかもしれない。でも3000年の孤独がソフィをいざなった。連れて行ってしまった。
え、しんどすぎて無理……と思ったら案の定、脚本担当は末満さんでした。
そしてシュカが50年経っても年を取っていないということが6話の伏線になっている。


少年とともにアイダを埋葬し、リリーとチェリーは再び旅に出る。
神様が駆け足を命じた命と、神に祈っても終えることができない命。
リリーはアイダを羨んだのか、憐れんだのか。
少しの胸の痛みとともに、あくまでも優しく4話は幕を閉じます。

やっぱりこうしてみると、何だったんだ第3話…。

 


⑤馬車の日[作・降田天]
<あらすじ>
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ある雨の日にリリーが出会った「馬車の2人」貴婦人メイプル(演:樹里咲穂)とその従者シダ―(演:宮川浩)。
メイプルは繭期の息子ヘーゼルを溺愛しているが、実は無関係の少年をヘーゼルと思い込んでいるだけ。
実は従者シダーこそがヘーゼルであり、何年もの間、母が夢から醒めぬよう、少年たちをさらっては母に与えていたのだった。
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ミステリ作家の方が脚本を担当したと聞き大納得の第5話。
母と子の歪んだ愛情の物語でもあり、幸せな帰結の物語でもある。
導入は完全にホラーですけど……。

メイプルは、息子ヘーゼル(本当は無関係の少年)を溺愛し、束縛する。
やがてヘーゼルをクランに送り出す雨の日がやってくると、馬車に乗り、そこで記憶を取り戻す。
シダ―が少年を殺すとメイプルの記憶はリセット。また新しい「ヘーゼル」をあてがって、メイプルはずっと醒めない夢を繰り返す。

ある年の「ヘーゼル」として登場するのはまたも大久保祥太郎と池岡亮介ペア。
終始、メイプルに怯えた様子のヘーゼル。数年前に見た大久保ヘーゼルとは見た目も雰囲気も違う池岡ヘーゼル。何人目かわからない「ヘーゼル」を従者シダ―が撃ち殺し、目撃したリリーが捕らえられ、屋敷に連れ帰られてからがループの始まり。よく捕まるなあ、リリー。
森の奥の荒れ果てた屋敷でヘーゼルとして育てられ、馬車の日に殺され、またリセットして新しいヘーゼルになる。リリーもメイプルの狂気に取り込まれたのか、自分をヘーゼルだと思い込んでいるような描写もあり。
リリーが不死者だからこそ成立するループが見事。何回繰り返したんだろう。


捕らわれてからの生活を描いた歌パートが怪奇幻想の雰囲気あってすごくいい。
リリー、チェリー、メイプルの女声3人が綺麗。
メイプル役、宝塚出身の樹里咲穂さんがとても素敵です。歌、めっちゃ巧い。
「♪そして季節は廻った~」のビブラートで本当に季節がいくつも過ぎていったような風情と説得力がある。
この歌、リリーのビジュアル面がいちいちキマッてて見飽きない!手の動きが印象的な歌なんだけど、袖からこぼれる白い手の細さとか、関節どこ?な滑らかな所作とか、それから銃で撃たれて倒れてその姿勢のまま起き上がる流れるような美しさ(腹筋どうなってんの)、配信で何度も食い入るように見ちゃいました。

そして第2話では鬼灯親方を演じていた宮川さんがここでは息子役。
幼いころからヘーゼルを溺愛し、一方では自分の思う通りに厳しくしつける結構な毒親だったらしい(その感情は全然併存してしまうよね)メイプルのイニシアチブを繭期の頃に取って以来、ずっとメイプルの夢を覚ませずにおいている。
いったい何人の「ヘーゼル」を、どんな気持ちで撃ち殺してきたんだろう。
「夢の中に閉じ込めておくなんて残酷よ」とリリーに指摘されたとき、どんな思いだったんだろう。

毎年、馬車の日にヘーゼルが本物ではないことに気づいてきたメイプルは、ある年、予定より前に気づいてしまう。
リリーを撃ち殺そうとしたシダ―からリリーをかばい、銃弾に倒れるメイプル。シダ―が過ちに気づき悔い改めるのと、メイプルの息があるような描写があるので、この親子の余生が穏やかであるようにと願う。シダ―(本当のヘーゼル)がやったことは許されることではないけど、夢を見ている母が幸せそうで、それを守りたかったという動機は純粋だったんだろうな。

ガーベラとマリーゴールドの時も思ったけど、花言葉の使い方が上手い。
メイプル(楓)は「大切な思い出」、シダ―(シダ植物)は「夢」「誠実」、そしてヘーゼル(ハシバミ)は「真実」「和解」「調和」。
大切な思い出を捨てる必要はないけれど、夢から醒め、真実を受け入れ、和解できているといいね。

 

⑥枯れゆくウル[作・末満健一]
<あらすじ>
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シュカはかつてヴラド機関に所属していた。不死者リリーを拘束し、廃人になったリリーに非人道的な実験を繰り返すヴラド機関であったが、シュカはある時、リリーにまだ感情があることに気づく。
組織を裏切りリリーを逃がした後、シュカは不死薬「ウル」を自らに投与。その命を危険にさらしながら、残りの人生でリリーを見守り続けることを決めたのだった。
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雨下の章・最終章。
ここまでリリーを見守ってきた傍観者・シュカの過去と想いが明かされます。
そして「LILIUM」から「黑世界」に至るまでのリリーの空白も明らかになる。

これが壮絶で、「LILIUM」で不死者となったリリーはヴラド機関に捕らえられ、不死者であるがゆえに「実験」と称した非人道的な拷問が行われる。
毎日のように切り刻まれ、打ち砕かれ、すりつぶされ、引き裂かれ溶かされ、燃やされた。
どんなことをされても死ぬことがない代わりに、一切の反応を示さず廃人のようだったリリーに、ある日スノウフレークの花(!)を見せると、彼女は静かに涙を流す。

感情を持ったまま凄惨な仕打ちに数十年間も耐えてきたことを知ったシュカは彼女を逃がし、自らも不死薬「ウル」(「LILIUM」で出てきたまさにアレ)を服用。体がちぎれるような苦しみを味わい、不死者にはなれないものの長命を得たシュカは、リリーの長い旅にそっと寄り添い、傍観し、見届ける道を選ぶ。そしてとうとう「ウル」が尽き、今わの際にリリーと静かに向き合う…そんなお話。

まぎれもなく「LILIUM」の続編であり、これだけで1本舞台が作れてしまいそうな切ない物語でした。
まず不死者になった直後のリリーの顛末が壮絶すぎる。すりつぶされって。
リリーが受けた仕打ちを考えると、リリーの中に別人格のチェリーが誕生したことも納得がいってしまう。そうでもしなければ壊れてしまった。物語中でもリリーが割と常識的なふるまい担当、チェリーが毒舌担当っていうのも、チェリーがリリーの押し込めた本音を代弁する存在だからなのかな。逆にリリーが繭期こじらせてるときはチェリーが正気だったりするし。

マルグリットとはまた趣の違うリリー強火担(言い方)として、彼女の人生に責任を持ち、見守り、寿命尽きるまで見届けたシュカ。
「まるでリリウムの花のようにそれは美しい孤独だ」と切々と歌うシュカの声が祈りのようで。
確実に死の足音が近づいている中、シュカとリリーの2人きり、穏やかで静謐な時間。なぜかチェリーは現れない。デュエットの美しさに浸ってしまいました。
「君にとっては瞬きのような時間だっただろうが、僕にとってこの100年は永遠だった」と言い、100年分の老いを一気に引き受けたシュカは、まさに枯れるように息を引き取る。

リリーが「私はソフィじゃない」と言い、シュカが「僕はウルだった」と言うのも切ない。ソフィとウル。望まない永遠を生きる者と、永遠に焦がれても手に入れられない者。見送る者と、先に逝く者。
リリーがずっと純潔で、ソフィのようにならないと抗いながら、でもソフィにとってのウルのように、シュカが心に残り続けるのかな。願わくばそれは失った哀しみではなく、愛された記憶であってほしい。
純潔と言えば、「リリー(百合)」も「スノウ(スノウフレーク=鈴蘭水仙)」も「チェリー(桜)」も花言葉が「純潔」なのすごく…エモいよね…(語彙)。やはり君は僕で僕は君なのか…そうか…。

シリーズの核である「ウル」の名を冠した薬が、シュカの命とともに尽きたという事実は、一つの物語が終焉したことも示します。
雨ばかり降っていたあのクランの物語はこの「雨下の章」で一旦終わり、一筋の光が差し込むような「日和の章」に続いていく。
「日和の章」の感想もちゃんとまとまって書きたかったけど、とりあえずここでこのレポも一区切りします。長かったですね。


●エンディング
ラスト、エンディング曲のワルツ(かな?12/8拍子かも)を全員で歌い上げるところは鳥肌。
他キャストの太い歌声にリリーの繊細な高音が乗るところは何度でも聞きたい。
黑世界の曲は歌詞付もインストゥルメンタルももれなく全部良いのですが、このエンディング曲は特に世界観ぴったり。
ラストの全員のハモリにかぶせて、レクイエムみたいに鳴る重い鐘のような音が好きすぎる。

 

▼まとめ(られない)

本当に、今の時代にこの舞台を見ることができてよかった。
コロナで何もかもできなくなってしまった、楽しみがなくなってしまった、と嘆いているのは私たちばかりで、クリエイターの皆さんは何もあきらめていなかった。
舞台は、エンタメは、負けないよ。先に行って待ってるよ。と力強く言ってもらえた気がして、こちらの背筋も伸びました。
想像を絶する制約の中、懐かしくて新しい、美しくて孤独なTRUMPの世界を届けてくれて本当に感謝です。ありがとうございました。

池岡さんを8年越しで起用してくださったのはどなたにお礼を言えばいいですか?
改めては書かないけど、8年たっても未だにD2メンバーの心に刺さった棘(いい意味)であり続けるTRUMPシリーズ。すべての始まりとも言ってよいTRUTH、REVERSEに出演したD2メンバーを大事にしてくれているのは本当にありがたいです。
しかも今回はあんな濃ゆいキャラクター。初めて彼を見た方にも強烈なインパクトを残したことでしょう。いつかまた出演させてもらえるといいな。

あと、日和の章。
どうしても推しが出演している関係でレポが雨下に偏ってしまったけど、個人的には日和も同じくらい、いやお話の好みとしては上かもしれない。特に「青い薔薇の教会」が好き。
日和はリリーの内面をより深掘りしているのも良いし、とにかく朴路美さんの演技が素晴らしいの一言なので、シリーズを知らない人にも見てほしいくらいです。5歳から130歳まで演じる朴さんと、ずっと変わらないリリーとの心の交流。リリーを支えてくれる温かい思い出が確かにあるという事実が、黒い世界にほんの少しの希望を差す。

雨下と日和、通して見ると、リリーの行く先に幸せあれと願わずにはいられないです。
シュカが言うように、狂ってしまえば楽なのにそうしていないリリー。
家族のような存在に出会い、愛され、愛を与えたリリー。
ソフィのようにはならないと決意したリリーだけれど、そうならない保証はどこにもなくて。
「この両の手が死に届くまで」と両手を天に上げるノルマ(クラウスもソフィもやっていたね)こなしてしまったので大変に不安。

いつかは完結する(いつかはするよね?)TRUMPシリーズで、ソフィとリリーと、そしてクラウスがどんな結末を迎えるのか、見届けたい気持ちはありますが、その前に地獄の煮凝りみたいなもの(困ったことにこれが極上に旨い)を延々とお出しされるのはわかりきっているので怖すぎますね………。


リリーのあてどもない旅。
いつか終わりが訪れますように。
いつの日か愛しき最期が訪れますように。